「好き仕事OS」と「クリエイティブ仕事術」

 

今日はアプリの話でもプロダクトの話でもなく、ひさびさにオレの頭の中にある考えを書きたいと思います。具体的には、今月から行うセミナーやワークショップ、あるいは夏以降に予定している新しい書籍でなにをお伝えしたいかという話。

昨年の5月にこのブログを始めて8月に『iPhone×iPad クリエイティブ仕事術』を出版し、今年の3月には大きな震災もありました。それらすべての体験をとおして、ようやく明確になった1つの考えをまとめてみたいと思います。

ZONOSTYLE Cloud Work Flow 2

クリエイティブ仕事術の目的はなに?

最初の書籍、『iPhone×iPad クリエイティブ仕事術』のタイトルがまだ決まっていなかったとき、オレは「この本のテーマはいったいなんだろう?」とずっと考えていました。もちろん、中味のほとんどを書き終えていたわけですから、感覚的には十分に捉えていました。

ただ、まだそれをキッチリ言語化できていなかったんですね。そんなとき、この本の担当である藤井編集長が「クリエイティブ仕事術」というオレにとっては超ミラクルなキーワードを発案してくれました。「おお、それだ!」という感じでしたね。

あの瞬間から約半年。実はオレのなかでもう1つの疑問というか謎が解けないままでした。そもそも、このブログやあの書籍で紹介していることはすべて「手段」です。つまり、「クリエイティブ仕事術」も手段なんですね。

では、目的はなにか?

たしか、あの本の前書きには「デジタル化できるものをすべてクラウドサービスに預け、すっきりした頭でクリエイティブなことをやる!」なんてことをクリエイティブ仕事術の定義として書いたように思います。

でも、それじゃあ弱い。まだ手段の域を出ていませんよね。だから、「なんのために?」

おそらく、本の発売以降、ずっとそのことを考え続けていたように思います。そして、そして! 2、3か月ほど前にようやくその答えが見つかったんです。

音楽家だった80年代の話をしましょう

話はいきなり80年代に飛びます。オレがロックミュージシャンとして活動していた時代ですね。当時、まだインターネットもソーシャルメディアもクラウドサービスも、iPhoneやiPadもありませんでした。

我々の活動拠点はおもにライブハウス。渋谷ライブイン、クワトロ、新宿ロフト、原宿ルイード、芝浦インクスティック、下北沢シェルター、川崎チッタなどでひと月に何本もライブをやっていたものです。

当時、オレのバンドにはとても熱心なマネージャーがいました。彼は宣伝活動のために我々の路線に近いバンドのライブに出向き、出口で待ち構えては紙のビラを配りまくってくれました。

また、ライブのたびにアンケートを配布し、電話番号や住所を集めては次のスケジュールをハガキや電話で伝えるなんて活動もやってくれていました。

まぁ、ひと言でいえば「地道な活動」なわけです。電子メールはおろか、携帯メールすらない時代のことですからね。デモテープを創ってもライブハウスで売るのが関の山。音楽を発信するメディアもテレビとラジオ以外になかったなんて、いまでは信じられない世界です。

当時からインディーズというジャンルはありましたが、西新宿あたりのマニアックなレコード店でしか音源を入手できませんでした。普通に暮らしている人との接点は皆無といってもいいでしょう。

YouTubeにUSTREAMにTwitterにFacebook!

もし、当時のオレが30年ほど未来にタイプスリップして、この2011年に活動していたとしたら! うーん、考えただけでもワクワクしてしまいますね。おそらく、まずは録音したデモ音源(もちろんGarage Bandで!)をMySpaceあたりに上げるでしょうね。

もちろん、プロモーションビデオも創りますよ。でもってYouTubeにアップしてチャンネル登録。いまなら、USTREAM中継に対応しているライブハウスも少なくありません。我々が演奏していたのはすべてオリジナル曲でしたから、遠慮なく生中継をやってしまうでしょうね。

でもってFacebookページを作って、Twitterでライブの告知をして、大きなイベントをやるならtweetviteなんかも活用するでしょう。もしかしたらAweditoriumを主宰するレーベルにデモを送るなんてこともやったかもしれません。

The KinksやThe Who!なんてキーワードをアクティブに検索して、ブリティッシュビートが好きな人たちを見つけてはライブに誘うなんてのも楽しそうですね。「君、そういうのが好きなんだ。じゃあ、オレのバンドの音聴いてみてよ!」

そうそう、iTunesにも音源を出しちゃいますよ。なんでもiTunesに登録された楽曲の7割は少なくとも一度以上ダウンロードされているのだそうです。これもビックチャンスの1つでしょうね。

Google Appsがあればバックオフィスは万全!

オレはたまたま80年代に音楽をやっていたわけですが、もし、まかり間違って当時、起業しようなんて考えたとしたら……。こちらも、30年後のいまと比べてみるとおもしろいですねぇ。いや、この場合は80年代といわず、90年代中ごろでもいいかもしれません。

オフィスにインターネット回線を引くのに数十万円。自社のウェブサイトを作成するのにこれまた数十万円。グループウェアなるものを導入するのに数十万円。加えて社員のメールアドレスやらなんやら……。まぁ、金のかかることといったらなかったでしょうね。

じゃあ、2011年のいまならどうでしょう。少人数のベンチャーなら光ファイバーの100Mbps回線で十分。料金も月額数千円程度ですみます。ウェブサイトだってWordPressなんかのCMSの知識があれば自分で作れてしまいます。サーバーも最初は月額数百円の共用ホスティングで問題ないでしょう。

グループウェア? メールアドレス? 「なにそれ?」って感じですよね。980円で自社ドメインを取得してフリーのGoogle Appsを入れれば完了です。

あとはそうですね。オレが社長ならEvernoteとDropboxの有料アカウントを使えるようにして、Nozbeも導入するかな。まぁ、それでも月額で数千円×社員数といったところでしょう。

製品やサービスを売るのにも高価なバナー広告やリスティングは使わないでしょうね。それよりも、ソーシャルに長けた人を仲間に加えて、TwitterやFacebookで誠実にマーケティングやブランディングをやっていくと思います。

「9 to 5」ならクラウドやiOSデバイスはいらない!

またまた話は飛びますよ。もしオレが「自分は9時から5時まで会社で働くが、それ以外の時間はいっさい仕事のことは考えない」というポリシーを持っていたとします。さて、オレにとってクラウドサービスやiPhone、iPadは必要でしょうか。

音楽を聴くなど、趣味で活用する部分はあるとしても、少なくとも仕事においてはまったく必要ないと思います。たとえば、Dropboxなんてサービスを使う機会は皆無でしょうね。

なぜならば、仕事で使うデータはすべて会社のパソコンのハードディスクに保存されていれば事足りるからです。「9 to 5」以外は仕事関連の文書にアクセスしたり、仕事がらみのアイデアを保存したりする必要がないならば、クラウドサービスもiOSデバイスも活躍の場はないはずです。

では、どんなどんな人ならこれらのツールの恩恵を得られるのか? あえて極端に書きますが、オレの答えはこれです。

「24時間、365日、愛情を持って大好きな仕事のことを考え続ける人」

もちろん、一世代前の「がまん」や「根性」や「努力」のことをいっているわけではありません。「仕事=つらい、できればやりたくない」ではとても24時間考えることなど無理です。そうではなく、「その仕事が好きですきでたまらない」状態であることが条件なのです。

好きなことをやったほうがいいという新しい常識

週末に家族や恋人と映画を観ていて「お、これはあの製品のキャッチコピーに使える!」とひらめいたこと。バスルームで髪を洗っている最中に「今度のプレゼンにこの話を盛り込もう!」と思いついたこと。いまなら、iPhoneを取り出して即座にEvernoteにキャプチャーしておけます。

電車の中で、以前から説明に窮していた部分のチャート表が浮かんだら、iPadを取り出してDropboxに保存してある書類にすかさず画像を挿入できます。

「いつでもどこでも」。EvernoteやDropbox、そしてiPhoneやiPadは仕事とプライベートの境目を曖昧にした世界初のツールといえるんじゃないでしょうか。オレはそこがすごくおもしろいと思うんですね。

もし、愛情を持って取り組める仕事にクラウドやiOSデバイスを活用したとすれば、10年前には考えられなかったほどすごい効果が出せるに違いありません。

これまで「好きなことばかりやっていてはダメ」「イヤなことをがまんしてやるのが仕事」というのが我々の常識でした。親も先生も上司もそう教えてくれたはずです。

では、オレが冒頭に上げたいくつかの例、いまこの時代にあふれる未曾有のチャンスを見渡してもその常識は通用するでしょうか。

オレは、この30年の間に、インターネットとその上で展開されるさまざまなサービスやデバイスが、これまでの常識をくつがえすというとてつもない大仕事をやってくれたような気がしています。

もしかしたら、「好きなことをやったほうがいい」というのははるか昔からの真理だったのかもしれません。「好きこそものの上手なれ」「What one likes one will do well.」という言葉もあるくらいです。

少なくともいまなら、オレのような小心者でも「それができるかも」と思える環境が目の前にあるように思うのです。

好きな仕事を情熱的かつ効率よく成し遂げること

クリエイティブ仕事術の目的とは「好きでたまらない仕事を情熱的かつ効率よく成し遂げること」。これがオレの答えです。つまり、クラウドサービスやiPhone、iPadを活用する前提として、「好きなことを仕事にする」というOSを人生にインストールすることが重要になってくるわけです。

では、どうすればそれができるのか? ここでも前時代的な発想からの転換が必要になると思います。いわゆる「夢を追う」的な考え方ですね。これまで「好きなことをやる」というと、どうしても「歌手になる」とか「小説家になる」とか「スポーツ選手になる」とかの成り上がり的な話になりがちでした。

ここには、「好きなこと=ある職種」と考えてしまうことの落とし穴があったように思います。情報整理でいえば「フォルダー」的な発想です。Evernoteなどのツールを活用している方の多くは、この階層的な分類方法があまり機能しないことに気付いていると思います。

実は我々にとっての「好きなこと」とはフォルダーじゃなくて「タグ」なんじゃないでしょうか。

たとえばオレの場合、音楽でぱっとせずに33歳にして編集者に転身しました。旧来の見方なら「音楽家」というフォルダーから「編集者」という別のフォルダーに居場所を変えた、すなわち音楽家の夢破れて転職したということになるでしょう。

ところが、自分自身のことなのでよくわかるのですが、「音楽家」と「編集者」のどちらにも付く共通のタグがあるんです。その1つが「アレンジ」というタグです。

オレはバンド時代に作詞作曲を手がけていましたが、実は曲を創ることよりもできあがった楽曲をアレンジするほうが好きでした。できればカバーだけをやっていたいなんて思ったものです。

このアレンジというタグが編集者になっても同じように興味の中心だったように思います。筆者から受け取ったテキストをどう料理するか。写真をどう使って、図をどう添えて、どんなレイアウトで見せるか。音楽をやっているころと「好き」のポイントはまったく変わっていなかったわけです。

もう1つ「ライブ」というタグもあります。音楽家時代、もっとも心が躍る瞬間はやっぱり生のステージに立つときでした。このタグはセミナーやワークショップをやっているいまもオレにとって欠かせないものになっています。一対多のコミュニケーションから生まれるあの緊張感がたまらなく好きなんですね。

「好き仕事OS」と「クリエイティブ仕事術」を伝える

こうして自分の「好き」をタグに変えて仕事を眺めていくと、運が良ければ転職なんかせずとも好きな仕事が見つかる可能性があります。

「人と話す」が好きなタグという人が経理の仕事をしていたとしたら、思い切って営業部への異動願いを出すことが解決策になるかもしれません。異動が難しければ、部署内でやれることのなかから好きなタグを見つける手もあります。

最初は相対的な変化でもいいから、いまよりは好きなタグが多く付く仕事を見つける。これを続けるだけでも数年後には大きな違いが出ているはずです。

もちろん、この手のノウハウは「ああすればこうなる」といった線形にはなりません。「好きな仕事をやり抜くためには苦手なことを克服する必要がある」なんて矛盾もたくさん生まれてくるはずです。

さらにいえば、「その好きなことがだれかに必要とされるか?」という厳しい事実と向き合わなきゃならないときもやってきます。たとえばオレの場合、『iPhone×iPad クリエイティブ仕事術』は多くの方に読んでいただきましたが、80年代にリリースしたCDはさんざんな結果に終わりました。

つまりは、公式なんてない非線形の世界なんですね。

そのあたりも含めて、クラウドもiOSデバイスもなかった80年代からずっと「好きなことを」やり続けてきた経験を活かしてお伝えできたらと思っています。「好き仕事OSのインストール」といった感じでしょうか。

そして、その先は未曾有のチャンスツール、クラウドやiOSデバイスの活用すなわち「クリエイティブ仕事術」へと続きます。なんのための情報収集なのか。なぜ、ひらめいたアイデアをEvernoteにクリップしておくのか。iPhoneやiPadで文書を扱う目的は?

「好き仕事OS」と「クリエイティブ仕事術」がオレのライフワークです。

具体的には、まず秋までに2冊の書籍を刊行する予定です。1冊はクリエイティブ仕事術の第3弾。いつもの藤井編集長との二人三脚で制作できればと思っています。もう1冊は「好き仕事OSのインストール」に特化したもの。この本には48年の経験をすべてぶち込むつもりです。こちらは現在、某出版社の編集長と企画を磨いている最中です。

セミナーやワークショップのテーマもしばらくはこの2点に絞っていくつもりです。先日、新潟のGataRingoというコミュニティーのセミナーにお招きいただいた際に、このシリーズの封切りをしました。

来週から開催される「みちくさ大学」のセミナーも、それ以降も、もちろんこの2つのテーマでいきます。今回の記事に共感いただいた方は、ぜひ、会場にお越しください。みなさんにお会いするのを楽しみにしています!

 

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6 Responses to “「好き仕事OS」と「クリエイティブ仕事術」”

  1. Mizuochi 2011年6月13日 at 6:40 AM #

    いつも自分と向き合っている熱いzonoさんの思いが伝わってきます。「みちくさ大学」楽しみにしています。多分参加できると思います。

    • zonostyle 2011年6月13日 at 11:26 PM #

      水落さん
      いつもありがとうございます! みちくさ大学でお会いしましょう。楽しみにしています!

  2. JI5ISL 2011年6月13日 at 8:14 PM #

    ほぼ同世代です。いい年してまだ彷徨ってる気がします。
    「好き仕事OS」を探して持ち上げてみたいと思います。
    出版楽しみにしております。

    • zonostyle 2011年6月13日 at 11:26 PM #

      JI5ISLさん
      コメントありがとうございます! いくつになっても「好きなこと」は大切にしたいですね。いつかお会いできる日を楽しみにしています。

  3. cu_cchan 2011年6月25日 at 9:06 PM #

    今、自分が思い描く将来像を言葉にしてくださっていて、とても参考になりました。
    僕も絶対にクリエイティブで自分の「好き仕事OSのインストール」を実行しようと思います!

    • zonostyle 2011年6月26日 at 3:51 AM #

      cu_cchanさん
      コメントありがとうございます。ぜひ、楽しく実行してみてください。途中経過などご報告くださいね。よろしくお願いします!

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